2021/02/22
他家iPS細胞を用いたがん治療の開発
分野
iPS細胞 CAR-T CAR-NK がん
内容
CAR-T治療は患者さんから免疫細胞(T細胞)を取り出してから、がん細胞を攻撃するように遺伝子を導入し再度患者さんに投与する ex vivo と言われるタイプの遺伝子・細胞治療です。既存治療が効かなくなった血液がん患者で著効を示したことから、各社で競って開発が進められ、キムリア(Novartis)、イエスカルタ(Glead)、ブレヤンジ(BMS)の3品目が米国FDA・日本で認可されています(2021年2月現在)。
CAR-T療法の欠点の一つに、サイトカイン放出症候群(CRS)の危険がありますが、この危険が少ないため外来治療も可能となりうるがん細胞治療としてNK細胞を用いるCAR-NK療法が注目されています。細胞のソースとしてはドナー由来や臍帯血のNK細胞に加え、大量培養により Off-the-Shelf 型の製剤供給も可能な、細胞株(NK-92)や他家iPS細胞由来のNK細胞を用いた開発が行われています。
他家iPS細胞を用いた細胞治療には免疫拒絶を防ぐためにHLAが適合したドナーを選ぶことが必要ですが、この点に対応したiPS細胞バンクの構築が京都大学CiRAなどで行われています。また、HLAを遺伝子編集技術(アリル特異的な遺伝子ノックアウト)で操作することで免疫原性の低い他家iPS細胞を作成できることが示されています。その都度患者に合わせたiPS細胞を樹立する必要がない off-the-shelf 型の治療を可能にする基盤として期待されています。
がん治療目的のNK細胞では、HLA遺伝子の他にも、CD38(がん抗原)ノックアウトなどの遺伝子編集技術が用いられることがあります。代表的な遺伝子編集技術であるCas9の特許紛争やライセンス料の高騰をきらってか、前世代の遺伝子編集技術TALENやCas9ではないCRISPR酵素を利用したNK細胞治療法も開発中です(表参照)。
開発中の他家iPS細胞由来NK細胞治療法(一部)
開発企業 |
遺伝子編集技術 |
CAR-NK 細胞の標的分子(開発品目) |
Fate Therapeutics |
CRISPR酵素Mad7 によるCD38 KO (Inscripta 社) |
CD19 (FT596 & FT819), BCMA (FT576), MICA/B (FT536), B7H3 (FT573) |
Century Therapeutics (FUJIFILM) |
公表なし |
CD19 & BCMA |
Cytovia Therapeutics |
TALEN (Cellectis社) 編集標的未公表 |
EGFRvIII (CYT-501), GPC3 (CYT-503), CD38 (CYT-538) |
BrightPath Biotherapeutics |
不該当 |
(iPS-NKT) |
ヘリオス |
公表なし |
公表なし(HLCN061) |
参考文献
GlobeNewswire February 16, 2021 01:00 ET
Cytovia Therapeutics , Cellectis Partner to Develop TALEN® Gene-Edited iPSC-Derived Natural Killer Cells
https://www.globenewswire.com/news-release/2021/02/16/2175695/0/en/Cytovia-Therapeutics-and-Cellectis-Partner-to-Develop-TALEN-Gene-Edited-iPSC-Derived-Natural-Killer-Cells.html
Evaluate Vantage February 16, 2021
Cytovia turns to Cellectis for gene editing
Jacob Plieth
https://www.evaluate.com/vantage/articles/news/snippets/cytovia-turns-cellectis-gene-editing