2021/03/26
ヒト多能性幹細胞(ES, iPS)細胞からの胚盤胞様構造( blastoid )の作成
分野
iPS細胞 ES細胞 発生
内容
ヒト多能性幹細胞(ES, iPS)細胞からの胚盤胞様構造の作成に成功したことが先週3月18日の natureに2つのグループから報告されました。ほぼ同時期にプレプリントサーバーのbioRiXVでも他の2つのグループにより同様の成果が報告されました。
これまで胚盤胞様構造をヒト多能性幹細胞から作製することは困難でしたが、細胞を処理する薬剤の組み合わせや特殊なプレートによる凝集塊の作製法、3次元マイクロ流体デバイスなど様々な工夫で4つの研究チームがほぼ同時に成功に至りました。
不妊治療においては、着床率向上が大きな課題であり、人工授精した初期胚は形態的に確認できるものの、子宮内膜の状態は超音波診断で肥厚測定するほか有効的な手段がなく、機能的な着床の評価系が構築できることは大きな進展です。
この課題は、ヒトの不妊治療だけではなく畜産分野でも大きなもので、どちらも人工授精の成功率は20-30%程度とされています。
今回の研究成果によれば、実際のヒト初期胚を用いずに、多能性幹細胞から作製した初期胚モデル(胚盤胞様構造)を用いて、着床の研究を進めることができます。
今回の培養では、ヒトの初期胚の培養を8日前後で止めています。これは正常のヒトの発生では胚盤胞様構造ができて肥厚した子宮内膜に着床にした直後の段階となります。この段階では生殖細胞系列のパターン化は起こっていないとのことです。日本を含む多くの国において、ヒトの初期胚を用いた培養は、受精後14日を超えてはならないことが倫理的に規制されていることが背景にあります。
多能性幹細胞からの初期胚作成は、研究が先行しているマウスでもまだまだこれからの技術ですが、倫理的な課題も多く、ISSCR(国際幹細胞学会. International Society for Stem Cell Research)からは5月に改訂したガイドラインが発表される見込みとのことです。
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参考文献
nature
Modelling human blastocysts by reprogramming fibroblasts into iBlastoids.
Liu, X., Tan, J.P., Schröder, J. et al.
Nature (2021). https://doi.org/10.1038/s41586-021-03372-y
Blastocyst-like structures generated from human pluripotent stem cells.
Yu, L., Wei, Y., Duan, J. et al. Nature (2021). https://doi.org/10.1038/s41586-021-03356-y
bioRxiv
Reconstructing human early embryogenesis in vitro with pluripotent stem cells
Berna Sozen, Victoria Jorgensen, Meng Zhu, Tongtong Cui, Magdalena Zernicka-Goetz
https://doi.org/10.1101/2021.03.12.435175
Generation of human blastocyst-like structures from pluripotent stem cells
Yong Fan, Zhe-Ying Min, Samhan Alsolami, Zheng-Lai Ma, Ke Zhong, Wen-Di Pei, Pu-Yao Zhang, Xiang-Jin Kang, Ying-Ying Zhang, Hai-Ying Zhu, Jie Qiao, Mo Li, Yang Yu
https://doi.org/10.1101/2021.03.09.434313
解説記事
First complete model of the human embryo
Nature(2021). doi: https://doi.org/10.1038/d41586-021-00581-3
Lab-grown structures minic human embryos earliest stage yet
Nature(2021). doi: https://doi.org/10.1038/d41586-021-00695-8